ぱるちのものおき2.0

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a^a^a^a^a^a^a^a^...を【数式で】捉える(後半戦)

marukunalufd0123.hatenablog.com

これは上記の記事の続きになります。
概要を思い出しておくと,

x を実数,n を正の整数として,関数の列 \left\{f_n(x)\right\}_{n=1}^{\infty} を,

f_1(x)=x
f_{n+1}(x)=x^{f_n(x)}\quad (n=1,\ 2,\ 3,\ldots)

と定義する。また,\displaystyle\lim_{n\to\infty}f_n(x) が存在するとき,その値を f(x) と書く。

f(x) は,1\lt x\leqq e^{1/e} のときは存在し,e^{1/e}\lt x のときは存在しないことが前半戦にて示されました。
ここでは,0\lt x\lt 1 でのふるまいについてみていきます。

まずは発想を共有しよう

いきなり数式に入ると読者を置き去りにする自信がありますので,すこし動機付けとなる現象を紹介します。

x=0.1 としてみましょう。そして,f_1(x),\ f_2(x),\ f_3(x),\ f_4(x),\ f_5(x),\ f_6(x)Wolfram Alphaに計算させると次のようになります。

\begin{array}{ccl}
f_1(x)&=&0.1\\
f_2(x)&=&0.794328\cdots\\
f_3(x)&=&0.160573\cdots\\
f_4(x)&=&0.690919\cdots\\
f_5(x)&=&0.203742\cdots\\
f_6(x)&=&0.625544\cdots
\end{array}
この事実が何を教えてくれるかというと,n偶数であるか奇数であるかによって,値が大きく振れてしまうことです。
これは以降の議論にも反映させないと,正しく議論できる気がしません。。。

ですので,0\lt x\lt 1 のときは偶奇に分けて考察をしていきましょう。

よし本題

まずは次のことを示します。

すべての正の整数 m について,0\lt x\lt 1ならば

\left\{\begin{array}{l}
0\lt f_1(x)\lt f_3(x)\lt f_5(x)\lt\cdots\lt f_{2m-1}(x)\lt\cdots\lt1\\\\
0\lt\cdots\lt f_{2m}(x)\lt\cdots\lt f_6(x)\lt f_4(x)\lt f_{2}(x)\lt 1
\end{array}\right.
つまり,偶奇に分けることで単調性が見えてくるわけです。確かに x=0.1 の例も,偶奇に分ければ単調であることが見えてきます。
対数を取って証明したいのですが,\log x\lt 0 であることに注意します。
(証明)
n を2以上の整数とする。
f_n(x) の定義から,\displaystyle \frac{f_{n+2}(x)}{f_{n+1}(x)}=x^{f_{n+1}(x)-f_n(x)} が成り立つので,両辺の(自然)対数をとり,

 ① \displaystyle\log\left(\frac{f_{n+2}(x)}{f_{n+1}(x)}\right)=(f_{n+1}(x)-f_n(x))\log x

同様に,

 ② \displaystyle\log\left(\frac{f_{n+1}(x)}{f_{n}(x)}\right)=(f_{n}(x)-f_{n-1}(x))\log x

①-②から,

 ③ \displaystyle\log\left(\frac{f_{n+2}(x)}{f_{n}(x)}\right)=(f_{n+1}(x)-f_{n-1}(x))\log x

n=2 のときから考える。0\lt x\lt 1 だったから \log x\lt0 である。また,

   f_3(x)-f_1(x)=x^{x^x}-x=x^{x^x-1}\gt0

だから,③式の右辺は正と負の積となっているので負である。したがって

   \displaystyle\log\left(\frac{f_{4}(x)}{f_{2}(x)}\right)\lt0

が成り立ち,この式から\frac{f_{4}(x)}{f_{2}(x)}\lt1 となるから,f_4(x)\lt f_2(x) が従う。

n=3 のときは③式の右辺が正であることが分かるので,n=2 のときと同様に,f_3(x)\lt f_5(x) である。

この議論を繰り返すことで,

\left\{\begin{array}{l}
0\lt f_1(x)\lt f_3(x)\lt f_5(x)\lt\cdots\lt f_{2m-1}(x)\lt\cdots\\\\
\cdots\lt f_{2m}(x)\lt\cdots\lt f_6(x)\lt f_4(x)\lt f_{2}(x)\lt 1
\end{array}\right.
であることが示される。

また,補題1よりf_{2m}(x)\gt0 であり,x\ (0\lt x\lt 1) と正の実数a について x^a\lt1 が成り立つことから,

   f_{2m+1}(x)=x^{f_{2m}(x)}\lt1

である。よって,

\left\{\begin{array}{l}
0\lt f_1(x)\lt f_3(x)\lt f_5(x)\lt\cdots\lt f_{2m-1}(x)\lt\cdots\lt1\\\\
0\lt\cdots\lt f_{2m}(x)\lt\cdots\lt f_6(x)\lt f_4(x)\lt f_{2}(x)\lt 1
\end{array}\right.


この証明によって,関数列\{f_{2m-1}(x)\}_{m=1}^{\infty}上に有界な単調増加数列なので,ある収束先 \alpha(x) が存在する。同様に関数列\{f_{2m}(x)\}_{m=1}^{\infty}下に有界な単調減少数列なので,ある収束先 \beta(x) が存在する。

もしも \alpha(x)=\beta(x) ならば \displaystyle\lim_{n\to\infty}f_n(x) は存在するし,\alpha(x)\neq\beta(x) ならば \displaystyle\lim_{n\to\infty}f_n(x) は存在しない。

というわけで,\alpha(x)=\beta(x) となるための x についての必要十分条件を探すことが,当分の目標になります。

まずは\alpha(x),\ \beta(x) が満たすべき式を提示して,それを証明します。


\left\{\begin{array}{l}\displaystyle
\log \left( \log\frac{1}{\alpha(x)} \right)=\alpha(x)\log x+\log \left(\log\frac{1}{x}\right)\\\\
\displaystyle\log \left( \log\frac{1}{\beta(x)} \right)=\beta(x)\log x+\log \left(\log\frac{1}{x}\right)
\end{array}\right.
個人的には全部正の数で考えたいので,\log x よりも\log \frac1x のほうが以降の議論で有効な気がするのです。となるとどうしてもゴツく見えてしまいます。許してください。この式は f_n(x) の定義から示します。
(証明)
f_n(x) の定義より,\log f_{n+1}(x)=f_n(x)\log x だが,この両辺を-1 倍することで,

   \displaystyle\log\frac{1}{f_{n+1}(x)}=f_n(x)\log\frac{1}{x}

を得る。この式によって偶数列と奇数列だけに分離することができて,

\left\{\begin{array}{l}\displaystyle
\log \left( \log\frac{1}{f_{2m+1}(x)} \right)=f_{2m-1}(x)\log x+\log \left(\log\frac{1}{x}\right)\\\\
\displaystyle\log \left( \log\frac{1}{f_{2m+2}(x)} \right)=f_{2m}(x)\log x+\log \left(\log\frac{1}{x}\right)
\end{array}\right.
この式たちについて m\to\infty とすることで,

\left\{\begin{array}{l}\displaystyle
\log \left( \log\frac{1}{\alpha(x)} \right)=\alpha(x)\log x+\log \left(\log\frac{1}{x}\right)\\\\
\displaystyle\log \left( \log\frac{1}{\beta(x)} \right)=\beta(x)\log x+\log \left(\log\frac{1}{x}\right)
\end{array}\right.
を得る。◆

といっても示した式はさすがにゴツいので,\displaystyle\log\frac{1}{\alpha(x)}=s,\ \log\frac{1}{\beta(x)}=t と置き換えます。すると,

\left\{\begin{array}{l}\displaystyle
\log s=e^{-s}\log x+\log \left(\log\frac{1}{x}\right)\\
\displaystyle\log t=e^{-t}\log x+\log \left(\log\frac{1}{x}\right)
\end{array}\right.
となり,ちょっとすっきりしました。

ちょっとだけ s,\ t のとりうる値の範囲も考えておきます。といっても,0\lt\alpha(x)\leqq10\leqq\beta(x)\lt1 なので

   \displaystyle \frac1e\leqq s\lt 1,\ \frac1e\lt t\leqq 1

ってだけなんですが。

\boldsymbol{e^{-e}\leqq x\lt 1} のとき

e^{-e}\leqq x\lt 1 のとき,\alpha(x)=\beta(x)であることを示します。

そのために,u\ (\frac1e\leqq u\leqq1) について,u の定義域の内部で微分可能な関数 F(u) を考察します。

 ④ F(u):= e^{-u}\log x+\log \left(\log\dfrac{1}{x}\right)-\log u

これを u微分すると,

  \displaystyle\frac{d}{du}F(u)=-e^{-u}\log x-\frac1u=-\frac1u\left(\frac{u}{e^u}\log x+1\right)

となります。特に\displaystyle \left(\frac{u}{e^u}\log x+1\right) は常に0以上です。なぜなら,\displaystyle \frac{u}{e^u} は,u=1 で最大値 \displaystyle\frac1e をとることが増減を調べることによってわかります。今,e^{-e}\leqq x\lt 1としましたので -e\leqq\log x\lt0 となります。つまり,\frac1e\leqq u\leqq1 の範囲では常に-1\leqq\frac{u}{e^u}\log x となりますので,\displaystyle \left(\frac{u}{e^u}\log x+1\right) は常に0以上です。

以上より,\frac1e\leqq u\leqq1 の範囲では \displaystyle\frac{d}{du}F(u)\leqq0 ですので,F(u) は単調減少な関数であることが分かりました。

つまり,F(u) は中間値の定理から,F(u)=0 となるようなu\in\left(\frac1e,\ 1\right)高々1つしか存在しないことになります。
s,\ t が存在すれば,s=t でなきゃいけないって言ってるんですね。

しかし,\alpha(x),\ \beta(x) の存在性からs,\ t の存在は保証されているので,結局 \alpha(x)=\beta(x) です。

∴ \boldsymbol{e^{-e}\leqq x\lt 1} のときは \boldsymbol{f(x)} は存在する。

\boldsymbol{x\lt e^{-e}} のとき

x\lt e^{-e} のとき,\alpha(x)\neq\beta(x)であることを背理法で示します。

関数 \log x について平均値の定理から,f_n(x)f_{n+1}(x) の間にある実数 R_n が存在して,

   \displaystyle\frac{\log f_{n+1}(x)-\log f_{n}(x)}{f_{n+1}(x)-f_{n}(x)}=\frac1{R_n}

となるようにとれます。この式を変形すると,

   \displaystyle\log\frac{f_{n+1}(x)}{f_n(x)}R_n=f_{n+1}(x)-f_n(x)

となりますが,これはこの記事の②式を代入することで,

   \bigl( f_n(x)-f_{n-1}(x) \bigr)R_n\log x ={f_{n+1}(x)-f_n(x)}

となります。ここで,次の補題3を使います。


補題上の状況で,n が十分大きいときに R_n\log x\lt-1 が成り立つ。

この補題3を認めてしまえば,n が十分大きいときには

   |f_{n+1}(x)-f_n(x)|\gt|f_{n}(x)-f_{n-1}(x)|

となり,これは f_n(x) が収束すると仮定したことに矛盾します。

補題3の証明)(ε論法でやるべきと思いますが,ここではがばがばに証明します。)
f(x) が存在すると仮定している。このとき,次の関数 G(u) を考える。

   G(u):=\log u-u\log x

この関数については G(f(x))=0 が成り立つ。(なぜなら,f(x)=x^{f(x)} でなければならないから。)
また,唐突に \displaystyle G\left(-\frac{1}{\log x}\right) を計算すると,

   \displaystyle G\left(-\frac{1}{\log x}\right)=-\log(-\log x)+1\lt0\ (\because x\lt e^{-e})

また,G(u)0\lt u\lt 1 では明らかに単調増加である。従って,

 ⑤ \displaystyle -\frac{1}{\log x}\lt f(x)

である。

また,R_nf_{n+1}(x)f_n(x) の間にある実数だから,はさみうちの原理から,

 ⑥ \displaystyle\lim_{n\to\infty}R_n=f(x)

となる。n が十分大きいときは,⑤⑥より,

   \displaystyle -\frac{1}{\log x}\lt R_n

が成り立ち,これより

   R_n\log x\lt-1

が従う。◆

これで言いたいことはすべて言えました。

∴ \boldsymbol{f(x)} は,\boldsymbol{x\lt e^{-e}} のときは存在しない。

まとめ

というわけで2つの記事に分けてみていきましたが,総括です。

x を正の実数としたとき, f(x) が存在するための必要十分条件は,

   \boldsymbol{e^{-e}\leqq x\leqq e^{1/e}}

である!!!!

もうここで完全燃焼してしまったので,いったんおしまいにします。もしも続編があるのならば,そのときはf(x) は実はある関数の逆関数になっていることとかでしょうか。そのお話はまた元気な時に...