分数は‘‘well-defined’’
この記事では,分数というものがどれほど高級なものであるかを見ていきます。ざっくりと概要を説明しますと,
分数の計算って,どうやって説明証明するの??
ってお話。数学をする人にはかなり平易な文章です。お許しください。
そもそも分数とは
もしかしたら,この記事を読んでいる人と僕とで‘‘分数’’というものに誤解があるかもしれませんので,あらためて説明を。
例えば,
などです。約分はしてもしなくても良いとします。また,次の例も分数と呼ぶこととします。
しかし,次のものは考えません。
定義っぽく書くと,「でない数 と,数 を用いて, と表されるもの」を分数と定めます。*1
そもそもwell-defined とは
まじめに説明する前に,具体例から考えます。
有理数 に対して,次の‘関数’ を考えます。
例えば, です。
しかし,この‘関数’については,次の現象が起こってしまいます。
なのに,
そもそも が の関数であるとは,「 の値を1つ決めると,それに対応して の値もただ1つに定まる」ことを指す言葉でした。しかし,今考えている‘関数’ については,関数とは呼べないじゃないか!という結論に至ります。
良かれと思って定義した‘関数’が,実は関数ですらなかったとき,数学者はwell-definedでない と言うのです。
そして,もしかしたら関数じゃないかもしれない…と,思わず疑ってしまうようなものを考えるとき,やっぱり関数って呼んでいいんだ!と自信をもって良いことを,well-defined というのです。*2
ここで,「もしかしたら関数じゃないかもしれない…」と疑う状況って??と突っ込んでしまいますが,例えば,
- 分数を用いて定義したとき
- mod □ の世界を考えるとき
- 無理数乗のお話をするとき etc...
です。無理数乗のお話は,今回のwell-definedとはやや異なるので,省略。
少し数学の言葉を借りて説明するならば,
今回は,「定義域においてある条件で同値関係 を定義したとき, ならば が成り立つかどうか」というwell-defined 性だけを考えます。
もう1つだけwell-definedではない‘関数’ を挙げてみます。
(mod 7) の世界において,
と定めます。*3
mod 7 の世界においては, ですが, ですので,この もwell-defined ではありません。
分数はwell-defined
というわけで,今回のタイトル「分数はwell-defined」ですが,この言葉は不完全です。釣り疑惑濃厚。
「分数は,加法と乗法に関してwell-defined」
を示します。要するに,分数のたし算かけ算を見直します。
分数の同値関係
分数には,ちゃっかり同値関係が入っています。例えば,
などです。つまり,「約分や通分をすれば同じになるものは同値」という,アタリマエかもしれない同値関係です。*4
しかし,このままだと今後の証明で使いづらいので,この同値関係の定義を作り直します。
この具体例で, が成り立っていることを利用して,分数の同値関係を次のように再定義します。
これなら,数式処理でも威力を発揮してくれそうです。
かけ算のwell-defined性
分数の乗法は,次のように定義されています。
これがwell-defined であることを示しますが,それは,次を示すことになります。
少し言い換えて,
を示します。数式変形は非常に簡単です。
これで,かけ算についてはwell-definedであることが示せました。
たし算のwell-defined性
実は足し算の方が面倒です。足し算の定義は次です。
これがwell-defined であることを示しますが,それは,次を示すことになります。
少し言い換えて,
を示します。
これで足し算もwell-defined であることが示されました。
証明の中身自体は大したことはないのですが,分数の計算(の前提の前提)で,ここまで時間がかかっちゃいました。こんなに背景が面倒じゃあ,「分数が出来ない大学生」がいっぱいいてもしょうがないね!