ぱるちのものおき2.0

主にLaTeXや数学のお話をするブログです。

領域の通過領域~GeoGebraを込めて~

よく大学受験では「直線の通過領域」ということで,ファクシミリの原理なんてお名前で呼ばれるものがあるけど,以下の問題は,いわゆる「領域の通過領域」を求める問題です。まずは問題を見てみよう。

座標平面において, \mathrm{O}(0,0)を中心とする半径1の円Cがあり,その内部に
\mathrm{A}(a,0)\ \ (0\lt a\lt1) を取る。C 上の 2\mathrm{P}\mathrm{Q}\angle\mathrm{PAQ}=90^{\circ} を満たしながら動くとき,以下の問に答えなさい。
(1) \overrightarrow{a}=\overrightarrow{\mathrm{OA}},\overrightarrow{p}=\overrightarrow{\mathrm{OP}},\overrightarrow{q}=\overrightarrow{\mathrm{OQ}} とおくとき, \overrightarrow{p}\!\cdot\!\overrightarrow{q}-\overrightarrow{a}\!\cdot\!(\overrightarrow{p}+\overrightarrow{q}) の値をaを用いて表しなさい。
 
(2) 線分 \mathrm{OA} の中点を\mathrm{M}とする。線分 \mathrm{PQ} の中点 \mathrm{R} は,\mathrm{P}\mathrm{Q}の位置によらず \mathrm{M} を中心とするある定円上にあることを示し,その円の半径をaを用いて表しなさい。
 
(3) (2)の円の内部の領域(境界は除く)を D とし,C 上に定点\mathrm{A_0}(1,0) をとる。\mathrm{A} が線分 \mathrm{OA_0} 上(両端は除く)を動くとき,D が通過する範囲の面積を求めなさい。
 
[平成29年度河合塾東工大直前トライアル 大問1(出題の意図を変えない範囲で改めています。)]

記号がいっぱいあって大変に見えます。確か大学受験の2週間前にこの問題に遭遇して*1,(3)の解き方が分からなくて,んで初めて予備校講師先生*2の解説を聞いて,ともかくいろいろ印象に残っている問題です。

僕の偏見だけど,これが解ければ「通過領域」の問題は強い人という認識で良いと思います。

さ,というわけで今回も解答(例)を書いていきましょう。なんとなく今回は丁寧語で書きたい気分ですので,ですます調で頑張っていきます。

(1) ベクトルと90^{\circ} があったら,やはり内積は0であることを用いるのが最も自然な流れと思います。今回の問題ならば,
\angle\mathrm{PAQ}=90^{\circ} \iff \overrightarrow{\mathrm{AP}}\!\cdot\!\overrightarrow{\mathrm{AQ}}=0
です。
\overrightarrow{\mathrm{AP}}=\overrightarrow{p}-\overrightarrow{a}\overrightarrow{\mathrm{AQ}}=\overrightarrow{q}-\overrightarrow{a} ですので,
(\overrightarrow{p}-\overrightarrow{a})\!\cdot\!(\overrightarrow{q}-\overrightarrow{a})=0
つまり,
\overrightarrow{p}\!\cdot\!\overrightarrow{q}-\overrightarrow{a}\!\cdot\!(\overrightarrow{p}+\overrightarrow{q})+| \overrightarrow{a}|^2=0

\therefore \underline{\overrightarrow{p}\!\cdot\!\overrightarrow{q}-\overrightarrow{a}\!\cdot\!(\overrightarrow{p}+\overrightarrow{q})=-a^2}

(2) 円の中心と,円周上の 1 点を問題文が教えてくれています。そのため,かなり自然な思考回路で,
| \overrightarrow{\mathrm{MR}} | が一定であることを示せばよいことに気が付きます。

というわけで,まずは \overrightarrow{\mathrm{MR}} を求めましょう。

\displaystyle \overrightarrow{\mathrm{MR}}=\overrightarrow{\mathrm{OR}}-\overrightarrow{\mathrm{OM}}=\frac{\overrightarrow{p}+\overrightarrow{q}}{2}-\frac{\overrightarrow{a}}{2}=\frac{\overrightarrow{p}+\overrightarrow{q}-\overrightarrow{a}}{2}

です。絶対値そのものよりも,2乗を考えるべきですので,

\displaystyle |\overrightarrow{\mathrm{MR}} |^2=\frac{|\overrightarrow{p}+\overrightarrow{q}-\overrightarrow{a}|^2}{4}=\frac{1+1+a^2+2(\underline{\overrightarrow{p}\!\cdot\!\overrightarrow{q}-\overrightarrow{a}\!\cdot\!(\overrightarrow{p}+\overrightarrow{q})})}{4}=\frac{2+a^2-2a^2}{4}=\frac{2-a^2}{4}
よって,\displaystyle |\overrightarrow{\mathrm{MR}} |=\frac{\sqrt{2-a^2}}{2} は一定値*3ですから,\mathrm{R}\mathrm{M} を中心とする半径\displaystyle \frac{\sqrt{2-a^2}}{2} 上にあることが示されました。

(3) D内の点(x,y)は,(2)より次の条件を満たします。(これは必要十分です。)

(x-\frac{a}{2})^2+y^2\lt \frac{2-a^2}{4}\cdots\cdots(\ast)

少し状況を把握してみましょう*4
以下で動かせるものは,点Pとaの値です。aの値が変化することで,卵みたいな領域が浮かび上がってきます。

これを満たす点(x,y)の集合を考えたいのですが,これはファクシミリの原理でもやりましたたように,これを満たすa が,0\lt a\lt 1 で存在するような点(x,y)の条件を考えることで議論を進めることが出来ます。

(\ast)の式をa について整理しますと,

\phantom{\iff}\displaystyle \frac{a^2}{2}-ax+x^2+y^2-\frac12\lt 0

\iff (a-x)^2+2y^2+x^2-1\lt 0

この条件を満たし,かつ0\lt a\lt 1 を満たすようなa が存在する(x,y) の条件を,場合分けをすることで求めていきます。

説明のため,f(a)= (a-x)^2+2y^2+x^2-1 とします。

x\leq 0のときは,f(0)\lt 0を満たすことが必要十分です*5。このことから,
2y^2+2x^2-1\lt 0 \iff x^2+y^2\lt \left( \frac{1}{\sqrt2} \right)^2 です。

0\leq x\leq 1 のときは,f(x)<0 を満たすことが必要十分となります。このことから,
x^2+2y^2\lt 1 です。

1\leq x のときは,f(1)\lt 0 を満たすことが必要十分です。このとき,

(x-1)^2+2y^2+(x^2-1) \lt 0 を満たすことが必要十分ですが,1\leq x のときは,左辺は必ず0以上です。よって,③のときはありえません。

よって,(x,y) は①と②を満たす(x,y) の集合の和集合ですので,図示しますと以下のようになります。

f:id:f_d0123:20190509020322p:plain
卵みたい!


この面積を求めることが最後の作業になります。この面積は,

\displaystyle
\begin{align}
&\frac{\pi}{4}+2\times \int_0^1 \frac{\sqrt{1-x^2}}{\sqrt2}\,dx\\
=&\frac{\pi}{4}+\sqrt2\times \int_0^1 \sqrt{1-x^2}\,dx\\
=&\frac{\pi}{4}+\sqrt2\times \frac{\pi}{4}\\
=&\underline{\frac{1+\sqrt2}{4}\pi}
\end{align}
ただし,この式変形の途中で,\int_0^1\sqrt{1-x^2}\,dx=\frac{\pi}{4} を認めて計算をしている部分があります。(半径1の四分位円だから,この積分は認めました。)



…ふぅ。これでおしまい。疲れた。僕は寝る。

*1:誘っていただいたA君にはものすごーーーーく感謝しています。どちらかが落ちたらすごく気まずいなぁと思っていましたが,無事2人とも受かったので何よりです。

*2:鈴木 克昌先生と記憶しています。丸めがねが印象的です。

*3:a は固定されている値なので,| \overrightarrow{\mathrm{MR}}|aに依存しても全く問題ないです。

*4:この記事で初めてGeoGebraを用いました。(難しいよぉ)

*5:ここらへんの議論が分かりづらく感じるかもしれません。議論の流れは二次不等式に似ています。